「この歳で、雇ってもらえるんだろうか」
60歳が見えてきて、もう一度働くことを考えたとき、多くの方が最初にこう思います。求人を見ても「若い人が有利なんでしょう」とためらい、応募する前から気持ちがしぼんでしまう。
就労支援の現場に13年いて、そんな声を、数えきれないほど聞いてきました。
先に、正直なことをお伝えします。60代の就活は、20代や30代と同じようにはいきません。それは事実です。でも、「もう遅い」わけでは、決してありません。年齢を重ねたからこそ持っている強みがあり、探し方や伝え方を少し変えるだけで、道は開けていきます。今日は、その話をします。
働く前に、お金と時間の「地図」を描く
求人を探す前に、ぜひやってほしいことがあります。それは、これからの人生の地図を、ざっくりでいいので描いてみることです。
まず、お金の流れをはっきりさせる。
毎月いくらあれば暮らせるのか。今、どれくらいの蓄えがあるのか。年金は、おおよそいくら受け取れるのか(「ねんきん定期便」や年金事務所で確認できます)。この3つが見えるだけで、「あといくら働いて補えばいいか」がはっきりします。
「自己防衛資金」を持っておく。
できれば、1年分くらいの生活費を、貯蓄として手元に残しておきたいところです。これがあると、「焦って条件の悪い仕事に飛びつく」ことがなくなります。心の余裕は、お金の余裕から生まれることもあるのです。
何歳まで、どう働くかを考える。
お金は、多いほど安心に思えるかもしれません。でも、就労時間を増やせば、その分、自分の時間は減っていきます。年齢を重ねると、健康でいられる時間(健康寿命)にも、限りがあります。
だからこそ、「いくら稼ぐか」だけでなく、「どれだけ自分の時間を残すか」も、同じくらい大切にしてください。残りの人生の時間を、お金と、どう分け合うか。その視点から仕事を選ぶことが、60代からの働き方では、とても大事だと思うのです。
「正社員フルタイム」に、こだわらなくていい
60代の就活でつまずく方の多くは、「正社員でフルタイム」という形にこだわりすぎています。長く働いてきた方ほど、その形が「ちゃんとした働き方」だと感じるからです。
でも、考えてみてください。今のあなたに必要なのは、「立派な肩書き」でしょうか。それとも、「無理なく続けられて、生活を支えてくれる働き方」でしょうか。
パート、契約社員、短時間勤務、週3日──選択肢はたくさんあります。年金を受け取りながら、足りない分を働いて補う、という形もあります。形にこだわらず、「自分の体と暮らしに合う働き方」から考えると、急に選択肢が広がります。
60代には、60代の強みがある
企業が60代に求めるものは、若い人とは違います。伸びしろや体力ではなく、「経験からくる安定感」です。
・似たような場面を、すでに何度も経験している
・感情に振り回されず、落ち着いて対応できる
・人との距離の取り方を、わかっている
・若い人が嫌がる時間帯や曜日にも、融通がきくことがある
これらは、長く生きてきた人にしか持てない財産です。面接では、この「安定感」を、静かに伝えてください。「バリバリ働きます」ではなく、「これまでの経験を活かして、落ち着いて務めさせていただきます」。そのほうが、ずっと信頼されます。
求人は、どこで探すか
インターネットの求人サイトだけでなく、ハローワークを使ってみてください。「無料で出せる求人はブラックが多い」と言う人もいますが、それは偏った見方です。ハローワークの求人は、職員が労働法に沿って確認して作られています。気になることは、相談員が会社に直接確認してくれることもあります。
さらに、地域によってはシニア向けの就労支援窓口(生涯現役支援窓口など)もあります。60代の就職を専門にサポートしてくれる場所です。一人で探すより、こうした窓口で相談員と一緒に探すほうが、ミスマッチが減ります。
焦らないこと、そして体を大切にすること
60代の就活は、すぐには決まらないこともあります。不採用が続くと、「やっぱり年齢のせいだ」と落ち込みます。でも、不採用は、あなたの価値を否定するものではありません。縁がなかった、タイミングが合わなかった。ただ、それだけのことも多いのです。
そして、無理はしないでください。若い頃と同じペースで動こうとすると、体がついてきません。応募も、面接も、自分の体力と相談しながら、ゆっくり進めていい。焦って心と体をすり減らしては、本末転倒です。
働くことは、生きることを支える大切な一部です。でも、あなたの人生の全部ではありません。
60代からの就活は、「もう一度、自分らしく働く場所を探す旅」です。若さで勝負するのではなく、これまで積み重ねてきたものを、そっと差し出す。その気持ちで臨めば、あなたに合う場所は、きっと見つかります。
働くために生きていくのではなく、豊かに生きていく、その一部として働くことがある。60代は、そう位置づけてもいい年齢だと、私は思うのです。
焦らず、丁寧に。あなたの再出発を、心から応援しています。
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